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静岡家庭裁判所浜松支部 昭和56年(少)694号 決定

少年 K・U(昭三六・七・二六生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

一  罪となるべき事実

(一)  昭和五六年(少)第五〇八二号事件記録中の司法警察員作成にかかる少年事件送致書記載の犯罪事実記載のとおり。

(二)  昭和五六年(少)第六九四号事件記録中の司法警察員作成にかかる少年事件送致書記載の犯罪事実第一、第二のとおり。

(三)  同記録中の司法警察員作成にかかる追送致書記載の追送致犯罪事実のとおり。

二  上記事実に適用すべき法令

(一)(1)  上記(一)の犯罪事実のうち第一の事実につき、道路交通法一一八条第一項一号、六四条

(2)  同            第二の事実につき、同法一一九条二項、一項九号、七〇条

(3)  同            第三の事実につき、同法一一九条一項一〇号、七二条一項後段

(二)(1)  上記(二)の犯罪事実のうち第一の事実につき、同法一一八条一項一号、六四条、一一七条の二第一号の二、六六条

(2)  同            第二の事実につき、刑法第二一一条前段

(三)  上記(三)の追送致犯罪事実につき、刑法二三五条

三  処遇理由

上記(一)の非行は、少年が無免許で普通乗用自動車を運転し、ハンドル操作を誤つた結果道路に駐車中の乗用自動車に衝突する事故を起こしたのに法令に定める報告をしなかつた事案であり、同(二)、(三)の非行は、少年が普通乗用自動車を窃取のうえ、これを又しても無免許でしかもトルエン含有のゴム糊を吸入して意識がもうろうとした状態で運転したため歩行者に衝突して同人に傷害を負わせた事案(なお、少年には事故発生の認識がなかつたため、送致事実からは除外されているが、結果的にはいわゆるひき逃げとなつているものである。)であるが、いずれもまことに悪質な事案であり、少年の刑責は重大といわなければならない。

加えて、少年は、無免許運転等本件と同様事案により、これまで中等少年院送致(一般短期処遇)、更には懲役刑(実刑)に処せられたこともあるのにその反省もなく、また本件自体においても上記(一)の事案につき審判の呼出しを受けながら、同(二)、(三)の非行に及んでいることなどに照らすと、遵法精神の欠如も甚しいものがあるといわなければならない。

以上のような本件事案の性質、少年の処遇歴、規範意識及び年齢等に照らすと少年に対し、刑事処分をもつて臨むことも十分首肯しうるところである。

しかし一方、少年の性向をみると、社会的に未熟さが目立ち、性格的にも年齢に比し未発達な面が強く、両親特に母親には表面的には反発しながらも、これに対する依存から抜け切れないといつた面があり、これらの改善のため「大人への成長」を目指した指導が必要であり、教育的処遇が強く望まれるところである。

そうすると、本件事案はまことに悪質ではあるけれども少年の年齢に照らし、今回が少年としての処遇を施しうる最後の機会であることにも鑑み、少年を少年院に送致し、相当期間にわたり矯正教育を受けさせることが最も妥当ということができる。なお、送致すべき少年院としてはこれまでの非行内容、少年の性格等に鑑み中等少年院が相当と認められる。

よつて、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条三項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 南輝雄)

〔参考一〕司法警察員作成少年事件送致書及び追送致書記載の犯罪事実

一 (昭和五六(少)五〇八二号事件)

少年は

第一 公安委員会の運転免許を受けないで、昭和五五年七月二〇日午前一時一〇分ころ、小笠郡○○町○○××番地先道路において普通乗用自動車(登録番号○○××ち×××号)を運転し

第二 前記日時場所において前記普通乗用自動車を運転し国道一五〇号線方面から海岸方面に進行中ハンドル操作をあやまり道路左側に駐車中の普通乗用自動車(登録番号○○××す××××号)の右後部に自車左前部を衝突させ、もつて他人に危害を及ぼすような速度と方法で運転し

第三 前記交通事故により相手車を破損させ物の損壊を認識しながら、法令に定める事項を直ちにもよりの警察署の警察官に報告しなかっ

たものである。

二 (昭和五六(少)六九四号事件)

少年は自動車運転の業務に従事している者であるが

第一 公安委員会の運転免許を受けず、かつ幻覚の作用を有するトルエンを吸入しその影響により正常な運転ができないおそれがある状態で、昭和五六年四月二一日午後八時一四分ころ浜松市○○町××番地先道路において普通乗用自動車(登録番号○○××そ××××号)を運転し

第二 前記車両を運転し時速約四〇キロメートルで進行しながら吸入したトルエンの影響により浜松市○○町××番地先道路にさしかかつたとき意識がぼんやりし、前方注視が困難な状態に陥つたものであるからこのような場合自動車運転者としては直ちに運転を中止して事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、意識もうろうのまま運転を継続した過失により前記日時場所において○○町方面から○○町方面に向かい推定時速約一〇~一五キロメートルで進行中、進路前方左側を対面歩行していたA子(一六歳)に気付かず自車左前部を同人に衝突させて側溝に転落せしめ、よつて同人に対し加療約一〇日間を要する左下腿打撲挫創、左腰部打撲の傷害をおわせたものである。

三 (昭五六(少)六九四号事件追送致書)

少年は昭和五六年四月一八日午後一時三〇分ころ浜松市○○×丁目××番××号○○工業所倉庫前空地に駐車中のB(三六歳)所有の普通乗用自動車一台(登録番号○○××そ××××号)時価一五万円相当を窃取したものである。

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